冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
侯爵令嬢の城外放浪記
フィラーナを載せた荷馬車が、レアンヴールの城下町を進んでいく。町の喧騒が耳に入ってくるが、樽の中から出られない状況下のため、今自分がどのような場所にいるのか確認する術がない。
荷馬車の速度がやや緩やかになり、フィラーナはそっと蓋を持ち上げて辺りを窺った。荷台の端に座る男が大口を開けて眠りこけている。御者台の男は前を向いていて、今のところ振り返る様子もない。
フィラーナは慎重に立ち上がり、外した蓋を樽の横に置いた。音を立てないよう樽から出て、眠る男の前を忍び足で通り、荷台の後方にたどり着くと、石畳の地面との距離を目測した。
飛び降りられない高さではないが、一応速度は出ているし、何しろ石畳の路面は固く、打ち所が悪ければ命に関わる。フィラーナがやや躊躇していたその時、いななきと共に馬が急停止し、荷台が大きく揺れた。その反動で、荷台から身を乗り出していたフィラーナは外に放り出されてしまった。
(痛……っ!)
視界が傾いた瞬間、咄嗟に上半身をひねったため顔面から落下することは免れたが、肩から背中にかけて衝撃が走った。だが幸いなことに、本能的に頭を上げたので意識ははっきりしている。
「お、おい、何事だっ」
「いや、急に猫が飛び出してきて……」
びっくりして目を覚ました荷台の男と、御者のやり取りが聞こえる。彼らが何事もなかったように再び荷馬車を走らせるのを、フィラーナは安堵して眺めていた。
荷馬車の速度がやや緩やかになり、フィラーナはそっと蓋を持ち上げて辺りを窺った。荷台の端に座る男が大口を開けて眠りこけている。御者台の男は前を向いていて、今のところ振り返る様子もない。
フィラーナは慎重に立ち上がり、外した蓋を樽の横に置いた。音を立てないよう樽から出て、眠る男の前を忍び足で通り、荷台の後方にたどり着くと、石畳の地面との距離を目測した。
飛び降りられない高さではないが、一応速度は出ているし、何しろ石畳の路面は固く、打ち所が悪ければ命に関わる。フィラーナがやや躊躇していたその時、いななきと共に馬が急停止し、荷台が大きく揺れた。その反動で、荷台から身を乗り出していたフィラーナは外に放り出されてしまった。
(痛……っ!)
視界が傾いた瞬間、咄嗟に上半身をひねったため顔面から落下することは免れたが、肩から背中にかけて衝撃が走った。だが幸いなことに、本能的に頭を上げたので意識ははっきりしている。
「お、おい、何事だっ」
「いや、急に猫が飛び出してきて……」
びっくりして目を覚ました荷台の男と、御者のやり取りが聞こえる。彼らが何事もなかったように再び荷馬車を走らせるのを、フィラーナは安堵して眺めていた。