冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 湯殿で全身を洗ってすっきりしたあと、打ち身によく効くという薬を宿の女中に塗布してもらい、用意されていた新しい下着類とクリーム色のワンピースに袖を通す。床に転がされた時から身体中埃がついていたので、こうして湯浴みをさせてもらえたことは心からありがたかった。 
 
 髪の毛を乾かしてから先ほどの部屋に戻ると、黒髪のウォルフレッドが待っていた。ただし、文管の深緑の上衣姿ではなく、木綿のシャツと茶色の外套と黒いズボンという軽装だ。

「お前は迎えの馬車でバルフォア家に向かい、そこでドレスに着替えてから城に戻れ」

「お前は、って……殿下はご一緒じゃないんですか? あ、まだ町に御用が……?」

「まあ、そんなところだ」

「じゃあ、私も連れて行ってください! 決してお邪魔はしませんから」

 これは願ってもない外歩きの機会。フィラーナは好奇心に瞳を輝かせながら、ウォルフレッドを見上げた。

「何言って……お前は怪我人なんだぞ」

「こんなの怪我に入りませんよ。腕だって回せます」

「お、おい、無茶するな」

 フィラーナがグルングルン肩を回すのを見て、ウォルフレッドが慌てて止めに入った。

「……この跳ねっ返り女」

 やや間があり、ウィルフレッドはため息まじりに呟くと、そのままドアの方へ向かう。しかし、ドアを開ける直前、部屋の中央で棒立ちになっているフィラーナの方を振り返った。

「腹が減った。昼時だからどこも混むぞ」

「は、はい、今行きます……!」

 随行の許可が下りたことがわかり、フィラーナは一層顔を輝かせた。
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