冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「探したよ、お兄さん」

 その中のひとりが、ようやく口を開いた。

「さっきは俺たちの仲間が世話になったなぁ」

「何の話だ」

「とぼけるな。あんたが道の真ん中で投げ飛ばした奴のことだよ」

 その男が言い終えると同時に、全員が一斉に隠し持っていたナイフの切っ先を向けた。ただならぬ空気を感じ、マッジが青ざめて「ヒクッ」と喉の奥で息をした。

 ライラは気丈にもそんな侍女の肩を強く抱いて、辺りを警戒している。

「ユアン、このふたりに危害が及ぶことがあってはならん」

「はい」

 ウォルとユアンは、ライラたちを背後に置き、ふたつの群れに向かってそれぞれ対峙した。そして、腰に下げていた剣を鞘から引き抜く。

「へえ、兄さんたち、いい武器持ってるじゃねぇか。助けてやる代わりに置いていけ。売れば少しくらい金になりそうだな。身なりからして、どこにも雇ってもらえない落ちぶれた騎士ってとこか」

 男の馬鹿にしたような物言いに、その場にドッと下品な笑いが起こる。

「貴様、これ以上、我が主を愚弄することは許さんぞ……!」

 ユアンは自分よりも主が侮辱されたことに怒りを覚え、剣の柄を握る手に力を込めたが、当の主は冷静な態度のまま淡々と言い返した。

「そうだな、売ればそれなりに値はつくだろう。だが、後から大勢で向かってくる小物にくれてやる道理はない」

「何だと……!」

 小物扱いされた男たちが、怒りの雄叫びをあげながら一気に斬りかかってくる。

 その瞬間、ウォルとユアンの剣先が宙を走った。だが、同等の武器を持たない相手に深傷を負わせるつもりはなく、あくまでナイフの攻撃をかわすことに徹している。

 勝敗が決するまで、時間は要しなかった。やがて金属と金属がぶつかり合う音が止み、男たちは多少、腕や掌に傷を負ったものの、見事に全員がナイフを弾き飛ばされた。一方のウォルとユアンは、かすり傷ひとつ負っていない。
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