冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 やがて、料理で腹を満たして店を出て、ウォルフレッドについて行った先は、商業通りを横に進んだところにある市場だった。

 昼を回り、買い物客でごった返す人通りの中、ウォルフレッドがしっかりと繋いでくれる手が頼もしい。

 肉屋、青果店、雑貨店などに立ち寄っては、商品を手に取って客のふりをしながら、ウォルフレッドは店主といろいろな話をしている。フィラーナは彼の邪魔にならないように、近くで立っているだけだったが、その間にも様々な商品を目にするのはとても楽しかった。

 離宮で退屈な日々を過ごすより、よっぽどいい。自由に港町を散策していた時のわくわく感がよみがえってくる。

 最初はフィラーナの体調を気遣っていたウォルフレッドも、フィラーナの明るい表情を見て安心したようだ。

 やはりウォルフレッドが王太子だということに気づく人物はひとりもおらず、市場をひとしきり回り、商業通りに戻ると、建物の隙間から西に傾く太陽が、視界を眩しく覆う。

「疲れたか?」

「いいえ、とっても楽しかったわ。まだまだ歩き足りないくらい」

 フィラーナがにっこり微笑めば、ウォルフレッドも表情を和らげて口角を上げる。

 ふたりは大通りに出て馬車を拾った。ふと、フィラーナは馬車が城とは反対の方向に進んでいることに気づく。それを尋ねると、ウォルフレッドは、見せたいものがある、と言ったきり何も答えなかった。

 しばらく馬車に揺られ着いたのは、王都を取り囲む城壁の前だった。ただし、あの闘技場は近くには見えないので、また別の方角なのだろう。

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