冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「ここは……?」

 問いかけながら横を見上げると、ウォルフレッドの髪が本来の色に戻っていることにフィラーナは焦った。

「ちょっと、ウォル……!」

「大丈夫だ。ここでは隠す必要はない」

 ウォルフレッドがフィラーナの手を引いて歩き出す。城壁の一部には鉄扉が取り付けられており、その前に立っていた兵士が、近づいてくるウォルフレッすドに気づいて背筋を伸ばしたまま一礼した。

 兵士が開けた鉄扉の中には上へと延びる階段があり、これが城壁の内部構造の一部であることがわかる。

 ウォルフレッドはフィラーナの手を引いたまま、ゆっくりと階段を昇っていく。光が差し込む上部までたどり着いた時、急な風に驚いてフィラーナは一瞬瞼を閉じたものの、すぐにその瞳を開く。

「わぁ……キレイ……」

 思わず息を呑む。

 目の前には遮るもののない、地平線へと続く豊かな緑の大地。

 その雄大な大地は今、沈みゆく夕陽の柔らかな光を受けて美しく輝いている。

「お前の故郷でも、きっとこんな風景が見られるんだろうな」

「……ええ……とてもよく似てるわ……」

 フィラーナの胸が懐かしさで震える。

 自分たちが立っている所は、城壁の東西南北にひとつずつ設けられている尖塔のひとつで、そこから城壁の上に渡れるようになっている。他国から攻められた場合、ここで応戦できる構えになっているが、スフォルツァ王国が始まって以来、そのような危機に見舞われたことはいまだにない。
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