冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 何も言わずに、じっと地平線を見つめているフィラーナに、ウォルフレッドがそっと声をかける。

「……帰りたくなったか?」

 フィラーナが振り向けば、少し憂いを帯びたウォルフレッドの水色の瞳と視線がぶつかる。

 フィラーナは穏やかに微笑んだ。

「そうね、残りたい気持ちもあるし、帰りたい気持ちもあるわ。……お兄様がどうしてるか、気になるから」

 再び、緑の大地に視線を戻す。

「こう言うと、兄に執着してる異常な妹のように思われるんでしょうね。でも、私が兄を支えるんだ、って強い意志で剣術も習ったし、港町を歩いていたのも、いろんなものを自分の目で見て、いつか兄の役に立つような知識を得て、強い人間になりたいって思ったからよ。……兄は昔、落馬事故に遭って、走ることも剣を握ることも出来ないの」

 雄大な景色を目の前に心が解放されたのか、ずっと胸の奥に仕舞っていた思いが、自然とフィラーナの口から紡がれていく。
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