冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「お前の気持ちも知らず、以前は酷いことを言ってしまった。……すまない」

絞り出すようなウォルフレッドの声が耳元から聞こえてくる。

それは護衛の件で口論になった時、『お前の剣術はお遊びだ』という主旨の発言をしたことだと、フィラーナはすぐに気づいた。でも、あの時に感じた悲しみや怒りは、もうフィラーナの中にはない。

「……もういいの。あなたの言うことの方が現実的だって、ずっと前から分かってたから」

自分の思いを受け止めてくれただけで十分だ。

フィラーナは徐々に身体の力を抜いて彼の背に腕を回し、そっと瞳を閉じる。


涼しさを纏い始めた夕刻の風の中、服越しに伝わる温もりは泣きたくなるほどに心地好かった。



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