冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナは静かに前を通り過ぎると、ソファに腰を下ろして近くのクッションを抱きしめた。

(むしろ……ウォルの様子が気になるわ)

 帰りの馬車で、ウォルフレッドは何か考え事でもしているように眉根を寄せて難しい顔をしたまま、車窓の景色に目を向けていた。

 城壁の上で、『帰りたくなったか?』と問われ、『残りたい気持ちもあれば帰りたい気持ちもある』と答え、雄大な景色を見て感傷的になったはいえ、これまでの思いを語った自分を彼はどう感じただろうか。自分の気持ちを汲み取り、明日にでもいよいよ帰郷命令が下るのではないだろうか。

(馬車で考え事をしていたみたいだし、その可能性はあるわ。私はそれを素直に受け入れられるのかしら……)

 複雑な思いのまま、フィラーナが夕食を終えて窓辺の椅子に座り、外を眺めていた時、部屋の扉が叩かれた。応対に出たメリッサが足早にこちらに戻ってくる。

「殿下がフィラーナ様にお会いしたいと、応接室でお待ちだそうです。もちろん、時間が遅いので無理にとは仰っていないそうですが……」

 やはり彼にも思うところはあるのか。フィラーナの心臓が緊張で早鐘を打ち始めたが、落ち着くために何度か呼吸を繰り返し、ゆっくりと立ち上がった。

「今から行きます、とお伝えして」
 
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