冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
* 

 先に応接室で待っていたウォルフレッドは、姿を現したフィラーナに自分の隣に着席するよう指示を出すと、使用人をすべて退室させてしまった。

「こんな時間に呼び出して悪かったな。疲れているのはわかっていたが、どうしても話がしたかった」

「いいえ、大丈夫です。私もお話したいことがありましたから」

「言葉遣いが元に戻っている。俺の前では普通にしてほしい」

「でも……」

 フィラーナは躊躇ったが、少し寂し気に揺れるウォルフレッドの瞳を見て何も言えなくなってしまった。やがて承諾するように頷くと、彼の表情が少しずつ和らいでいくのがわかる。

「俺に話があったなら先に聞こう」

「話というか……帰路の時のウォルの様子が気になってたの。ずっと考え事をしてたでしょう? 私が兄への思いを語ったから、あなたは私を明日にでも帰郷させるんじゃないかと思って」

「……お前がそれを望むのなら、そうしてやるべきなのはわかっている。大事故に遭って、それでも大切な人が生きていてくれて、そばで支えていたいと強く願うお前の選択は間違いじゃない。……俺もお前と同じ思いでいる。ただ、俺の場合はもう兄には会えないが」

 伏し目がちに語るウォルフレッドの言葉で、フィラーナはかつて令嬢たちのお茶会で把握した王族の系譜を頭の中に広げた。

 ウォルフレッドの上に確か第一王子がいたはず。

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