冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「……それは、エリク殿下のこと……?」

「ああ。……お前は兄に命を助けられたと言っていたが、それは俺も同じだ。……俺は幼い頃、テレンス側の人間から命を狙われたことがある」

「えっ……」

 フィラーナは思わず息を呑む。

「俺を死の淵から救ってくれたのはエリクだ。王子の数が多いほど本人たちの意思とは関係のないところで、争いは始まっている。それはどの王家においても同じことだ」

 ウォルフレッドは淡々とした語り口調で、エリクの話を続けた。


 エリクは王と侍女との間に出来た子で、その侍女はエリクを生んですぐに死亡した。侍女には身寄りがなかったため、エリクはこの王宮で育つこととなったが、母の身分が低いため彼に王位継承の権利はないだろうと誰もが思っていた。王にはすでに正妃を迎えており、まだ子はいなかったが、先で正妃が男児を生む可能性は大いにあった。

「エリクが七歳の時、俺が生まれ、その数か月後にテレンスが生まれた。俺は物心ついた時からエリクと一緒にいることが多かった。エリクは自分と俺の境遇を重ねていたんだろうな。エリクが俺を守ってくれているのは感じていたし、実際エリクは優秀で強い精神の持ち主だった。俺が周囲の大人たちからの蔑みや哀れみの視線を気にせず克服できたのも、エリクを見て育ったからだ。……もし、将来エリクが王位を継ぐことがあれば、俺は騎士として兄を守ろうと決意していた」

 
< 159 / 211 >

この作品をシェア

pagetop