冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「これで気は済んだか」

 男たちの動きが止まったことを確認し、剣を鞘に納める。しかし、それを見た男たちは、武器が無くなっても今度は素手でウォルとユアンに飛び掛かってきた。

 それでもふたりは焦りを見せることなく、冷静に敵の動きを見切って対処していく。

 相手の腕を捻り上げ、鳩尾に肘を打ち込み、足元を払う。この場合、大勢相手に不利な肉弾戦でも状況は変化せず、地面に叩きつけられ沈んでいく人数が増えていくだけだった。

 突然始まった乱闘に、マッジは腰が抜け、その場にへたり込んでいる。ライラもしゃがみ込んで安心させるようにマッジの体を抱き締めていた。

 やがて最後の相手を片づけたウォルが、ふたりのもとにやって来て、膝をつく。

「終わったぞ。巻き込んですまなかった」

 ライラは、ウォルの顔を見て安堵の笑みをこぼした。

「大丈夫よ。それに、もとはと言えば私が原因だもの。それにしても、すごいわ、あなたたち!」

 ふたりの軽い身のこなしと、高い戦闘能力を誉め称えるライラとは対照的に、マッジはわなわなと唇を震わせた。

「な、何が大丈夫なものですか! こんな恐ろしい目に遭って……!」

「でも、もう終わったわよ?」

「そういうことではありません! この者たちから一刻も早く離れなくては、お嬢様に悪影響を及ぼします! 花嫁は身体はもちろんのこと、心も穢れてはならないのですよ!」

「まだ結婚するって決まってないわ。候補に挙がってるだけよ。それに、好感を持てない相手と一生添い遂げるくらいなら、独り身のほうがマシよ」

「またそんな恐れ多いことをおっしゃって……!」

 眉を吊り上げて咎めるマッジを横目に、ライラはプイとそっぽを向いた。
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