冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「……あなたはセオドール殿下のために盾になろうとしたのね。それは、いずれ殿下に……」

 フィラーナはウォルフレッドの言葉を待った。沈黙が漂う中、ふたりは視線を逸らすことなく見つめ合っていたが、やがてウォルフレッドがわずかに口角を上げた。

「……察しがいいな、お前は。俺の考えを読み解いたか」

「ええ、大体は。……あなたは王に即位したあと、セオドール殿下を王太子に立てるつもりでいる。そして、周囲から結婚を奨められる前に、セオドール殿下へ譲位することも……。それが、エリク殿下への最大の恩返しであり、あなたにとっての揺るぎない信念でもあるから。でも、自分の子が生まれたりしていたら、継承権争いの火種になってしまう。……それを避けるために、最初から妻を娶るつもりはなかったのね?」

「……ああ、お前の言う通りだ。兄が生きていれば当然の流れだ。俺は兄から王太子の座を一時的に預かっているにすぎない。それに、セオドールは今は未熟だが、心根が広く誰にでも平等で、王の素質は十分あると俺は確信している」

「あなたの思いを、殿下はご存知なの?」

「いや、まだ本人には伝えていない。聞けば自分が俺のお荷物になっていると変に誤解し苦悩するだろうからな。もちろん他者にも口外していない。知っているのはレドリーだけだ。……俺の考えが極端すぎると呆れられても仕方のないことだが、そう簡単に曲げることは出来ない」


ウォルフレッドはフィラーナから視線を外すと、正面の壁に掛けられている絵画の方へと顔を向けた。


「王太子妃になりたくて王宮に呼ばれた女に俺を理解することは難しいだろう。皆、将来王妃になりたくてここへ集まっているんだからな。俺のような男についてくる女はいないだろうし、俺も理解してくれるまで説得するのは面倒だと思う性分だ。だから、最初から誰とも結婚するつもりはなかった」
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