冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 思いが通じ合ったとしても下さなければならない決断に、ウォルフレッドは切なげに唇を噛みしめたが、「わかった」と静かに答えた。

「明日、妃候補全員に帰郷命令を出す。セオドールを王太子に相応しい人間に育てるには、まだ数年かかるだろう。だが、お前を曖昧な立場には置かない」

 ウォルフレッドは身体を離すと、真剣な眼差しでフィラーナを見つめた。

「迎えに行くから待っていてくれ。俺の妻として、必ず」

 『妻』という言葉に、フィラーナの胸の奥がじんと熱くなる。王太子妃や王妃などの高貴な地位を示す用語より、ずっとずっと重みがあり、心に刻まれる響きだ。

「ええ……待ってるわ。私の未来の旦那様」

 嬉しくて涙が零れそうになるのを堪えて、声を震わせ返事をする。

 ウォルフレッドの手がフィラーナの頬に伸び、その滑らかな肌に触れた。優しい手つきが心地よくてフィラーナが思わず目を閉じると、今度は唇をなぞられ、ぞわぞわと背中が粟立つ。

「好きだ、フィラーナ」

 はっきりと聞こえてきた言葉に反応して瞳を開けるよりも早く、フィラーナの唇は愛しい男のそれで塞がれていた。優しく吸われるような感覚から始まり、気づけばわずかな唇の隙間から熱い舌を割り入れられていた。

「ウォル、わ、私も……好き……っ」

 息もつけないほどの激しい口づけの合間に、フィラーナが羞恥で顔を真っ赤に染めながらクラクラする頭でやっと答えると、ウォルフレッドはさらに深くフィラーナの甘い口内を味わい尽くしていく。

 意識が飛んで崩れ落ちてしまわないように、フィラーナは男の衣服をぎゅっと掴む。

(また会えるんだから……)

 それでも閉じた瞳からは涙が溢れて止まらなかった。

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