冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「あのっ、ごめんなさい……あなたの大切な剣を無断で抜いてしまって……」
後ろからためらいがちな声が聞こえ、ウォルが振り向くと、ライラが剣を両掌に水平に乗せ、おずおずと差し出している。
ウォルは剣の刃でライラの手が傷つかないように慎重に受け取ると、鞘に納めた。
「あなたの名前も勝手に叫んでしまったし……。それに、驚かせてしまってごめんなさい。急に目の前に剣が飛び出してきてびっくりしたでしょう……?」
「……ああ。だが、驚いたのはそこじゃない」
ウォルはじっとライラを見つめた。
「ライラと言ったか。剣技に心得があるようだな」
「ええと、それは……」
「さあ、お嬢様、長居は無用です。帰りますよ!」
突然のマッジによってライラの言葉は強制的に遮断された。そのままマッジに腕を取られ、ライラはグイグイと引っ張られていく。二、三度ウォルの方を振り返ったが、やがて路地を曲がって姿は見えなくなった。
路地に静寂が戻る。
「ウォル様、先ほどは申し訳ありませんでした。私の不注意で、あなた様の身に危険が及んでしまいました。どのような罰でも謹んでお受けいたします」
ユアンが腰を折り、深く頭を下げた。
「お前のせいじゃない。俺が気を抜いていたからだ。それより、俺達もここを去るぞ」
ウォルは路地を抜け、大通りに出た。だが、すでにライラの姿はない。