冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 広間を飛び出したフィラーナの視界が、通路の先を駆けていくルイーズの背中を捕らえる。

「ルイーズ!!」

 フィラーナは叫んだが、聞こえているのかいないのか、ルイーズは走る速さを緩めない。そのまま階段を昇り、上階にたどり着いたルイーズは、とあるドアを開けて中に滑り込んだ。

 そのままバルコニー目掛けて走って行くが、その手前のガラス扉には鍵がかかっているらしく、何度押しても開く気配がない。そうしているうちに追いつかれ、振り返ったルイーズは身体を硬直させた。フィラーナの後ろに、ウォルフレッドをはじめとする数人の騎士が立っている。

「ウォル……ここは私に任せて。ルイーズと話をさせて」

 すぐに捕まえないようフィラーナが懇願すると、少し間があった後にウォルフレッドは渋々頷いた。

「廊下に待機している。何かあったら、すぐ叫べ」

「ええ」

 小声で約束を交わすと、ウォルフレッドと騎士たちは部屋をあとにした。

 静寂が部屋を包む。

「ルイーズ……ほら、こっちに来て……?」

 穏やかな微笑みを浮かべたフィラーナが両手を差し出しながら、ゆっくりと近づいてくる。ルイーズは、バルコニーから飛び降りて全てを終わらせようとしている自分の考えを、この親友に見透かされていることを悟った。
 
「来ないで……!」

 ルイーズは袖口に隠し持っていた短剣を取り出すと、暗い表情のままフィラーナに切っ先を向けた。
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