冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 ルイーズの話に耳を傾けながら、フィラーナは初めて離宮で候補者全員が顔をそろえた時、ミラベルがルイーズに対してあからさまに嫌味な態度を取っていたことを思い出した。再会したふたりの上下関係は、過去を引きずったままだった。

「でも、私が王妃になれば、あらゆる人間を跪かせることが出来るのよ。自分を中心に世界が回ってると勘違いしてる、あの高慢なミラベルでさえもね……! そう思ったら、快感で身体が震えたわ……!!」

 ルイーズはカッと目を見開くと、楽しそうな笑みを浮かべた。そこには、フィラーナの知る、思いやりに溢れた心優しいルイーズの姿はない。

 権力とは、こうも人を変えてしまうのか。

フィラーナの胸は悲しみに打ちひしがれそうになった。

 それでも、ルイーズを絶望の淵に置き去りにしておくことは出来ない。フィラーナはゆっくりと前に歩を進めると、それに気づいたルイーズは慌てて笑みを消した。

「……来ないで」

 そう呟き、ルイーズは短剣の先を自分の方に向ける。その瞬間、フィラーナは短剣を奪おうとルイーズの手に飛びついた。

「馬鹿なことはやめて!」

「離してったら!」

 激しくもみ合う中、突然フィラーナは脇腹にドンッと強い衝撃を受け、ルイーズの動きが止まった。

 
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