冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない

　しかし、すぐに異変に気づいた。フィラーナの身体は、進めば進むほど、生きている時と同じように水中に沈んでいくのだ。

「え、どういうことなの、お母様……！」

　フィラーナの胸のあたりまで、水が迫ってきている。必死に前に向かって手を伸ばしたところで、ようやく母がゆっくりと振り返った。



『あなたは、まだよ、フィラーナ』


「えっ⁉」

『早く、お戻りなさい。待っている人の所へ』

「どういうこと……ガボッ！」

　突然、フィラーナの身体が水中に完全に沈んだ。

　息が苦しい。どうして、死んだはずなのにーー

(もしかして、私、まだ生きてるの……？)

　フィラーナは這い上がろうと、陽の光を受けてキラキラと輝いている水面に向かって手を伸ばす。だが、いつの間にか身体は深く沈んでおり、息が続かない。

(私、生きなきゃ……こんなところで、終われない……！)

　その時、フィラーナの手を誰かが力強く掴んだ。ぐいぐいと引っ張られ、フィラーナはようやく水面に顔を出し、思いきり呼吸をしながらーー

　重い瞼を上げた。