冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない


 フィラーナはあれから実に十日ほど、昏睡状態にあった。ルイーズの持っていた短剣の刃渡りは短かったため幸い傷はそれほど深くなく、急所も外れていて早めの止血処置により一命を取りとめることができたのだった。

 目覚めてからは快復方向に向かい、二日もすれば普通の食事も半量ほど摂れるようになっていった。

 フィラーナは自分の容体が安定し、痛みや疲れも感じていないことを自覚してから、ようやく先日の事件のことと、その後について、ウォルフレッドに尋ねた。


 あの日、フィラーナが連れ去られた場所は、王都から少し郊外にあるグランの所有の別荘地跡で、反王太子派の拠点のひとつとされていた所だった。もし城が戦火に包まれた際、外への脱出口として地下通路の存在をグランは宰相の立場として知っており、そこから人目につかぬままフィラーナを運び出したのだ。ユアンも、フィラーナが部屋を出てからしばらくしてフィラーナを追ったが、城中探しても見つからず、早々に彼女の失踪がウォルフレッドに伝えられた。

 ウォルフレッドは反王太子派の拠点の数々を事前に調べ上げており、失踪とグランが結びついていることを直感して、その動向を探っているうち、その別荘地跡にひとりの女性が入って行ったという情報を掴んだ。それはルイーズだったのだが、失踪直前にフィラーナが彼女と会ってたことから何らかの関係があると踏んで、グランの部下を装って騎士団の面々とともに紛れ込んでいたのだ。

「グランの思惑を白状させてその場で一網打尽にした方が、この争いに片を付けることができる。……だが、いくら目的遂行のためとはいえ、お前を危険に晒したことには違いない。すまなかった」

「いいのよ。助けにきてくれて感謝してるわ」
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