冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 真摯に頭を下げるウォルフレッドの手を、フィラーナは優しく手に取り、柔らかく微笑んだ。助けにきたくれたことへの感謝の表れではあるが、彼女が笑顔だったのにはもうひとつ理由がある。 

 ウォルフレッドがいなかった時にユアンからこっそり聞いた話ではあるのだが、あの時縛られたフィラーナが跪かせられたのを見た瞬間、全身から怒りのオーラを放ち、今にも剣を抜いて飛び出していきそうになっていたウォルフレッドを、隣りに立っていたユアンが必死に抑え込んでいたという。『殿下には私がお話したことは内密に願います。ご本人も格好悪いとお思いでしょうから』とユアンに頼まれたので、フィラーナは何だかくすぐったい想いとともに、この“格好悪くも愛しい男の真の姿”をこっそり胸に仕舞っておくことにした。

 そして、グランは反逆罪で、国王より厳罰が下されることが決まった。

「陛下はとてもショックを受けていらっしゃるでしょうね……。信じていた友人だったはずだもの」

「だからとって、罰を甘くしたりするような愚かな王じゃない。陛下はこの大国スフォルツァを統べてきた人物だ。適正な判断をお下しになる」

「そうね……。あ、でも、テレンス王子はどうなるの?」

「テレンスは今回、何の関りもない。だが、本人はひとりだけ蚊帳も外……はっきり言ってグランから内心見捨てられていたことが明らかになったわけだから、胸中は穏やかじゃないだろう。それなのに身内は反逆罪で投獄され、あいつも王宮内では肩身の狭い思いを強いられている」

「……これからどうするの?」

「一度、テレンスがこれからどうありたいのか、話を聞こうと思っている。最初はなかなか腹を割って話してくれないだろうが、こうなったのはこれまでちゃんと向き合ってこなかった俺にも落ち度はある。例え拒否されても、根気よく足を運ぼうと思う。……お前が、ルイーズを見捨てなかったように」

 ウォルフレッドは、フィラーナの肩をそっと抱き寄せた。
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