冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「でも、もうふたりが会うことはなくなってしまったわ。セオドール様が王になったら、ますます距離が遠のいてしまうでしょう? きっと、セオドール様の心からルイーズは消えてしまうわ」

「そう決めるのは早い。セオドールはルイーズと会えて穏やかな時間を過ごせたようだ。お前には言っていなかったがセオドールは俺に、『ルイーズほど心の清らかな女性はいない、一緒にいて幸せな気持ちになれる』と常に話していた。出会わせてくれたフィラーナに感謝している、ともな。セオドールもルイーズに愛情を感じていたような口調だった」

「殿下が、そんなことを……?」

「ああ。それに実は……セオドールが王族の身分を離れたいと申し出てきた」

「ええっ……⁉」

 フィラーナは驚きのあまり身を乗り出して、ウォルフレッドの正面を向く。

「セオドールには以前から、画家になりたいという夢があったらしい。だが、身分のためになかなか打ち明けられなかった、と」

 フィラーナは、セオドールの描いた巧みな鳥の絵を思い出した。ただの趣味ではなく、それは少年が抱く自身の夢の欠片だったのだ。

「本格的に絵を勉強して、ひとり立ちしたら……いずれ、ルイーズを迎えにいきたい、と俺に真剣な眼差しで伝えてきた。だが、一時の情に動かされているのなら、やめるべきだと俺は忠告した」

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