冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(私なんかがお妃に選ばれたら、春なのに空から雪が……いいえ、槍が降ってくるかもしれないわ)

 フィラーナは本気でそう思っているが、上機嫌な伯母を前にして言えるはずもなく、窓の外の景色へ視線を移した。

 父親のエヴェレット侯爵は穏やかな性格で、王都よりも領地での静かな生活を好んだので、フィラーナも緑豊かなこの地でのびのびと育った。もちろん、いずれそれなりの身分の男性の元へ嫁ぐことは侯爵家に生を受けた女の定めであるので、どこに出ても恥ずかしくないよう幼少期からきちんとした淑女教育は受けてきてはいる。しかし、男女の駆け引きになどに興味のないフィラーナは年頃の令嬢に比べて結婚願望が希薄で、エヴェレット侯爵も娘にこれまで縁談を無理強いしたことはなかった。


 そんなフィラーナに王宮から、王太子の妃候補に選ばれた旨の通達が届いたのは今から約一ヶ月前のこと。二十四歳の王太子は未だに独り身を通し、当然ながら跡継ぎはいない。国の未来を危惧した国王の御名のもと、国中から相応しい娘が集められるという。さすがに王命には逆らえるはずもなく、フィラーナは不本意ながらもこの運命を受け入れるしかなかった。
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