冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(王太子殿下がとても優れた方だというのはわかっているけど……)

王太子の次期統治者としての素質と能力の高さを、この国で知らない者はいない。王太子は、二年前から体調を崩しがちになった父王の補佐に付き、若いながらも政治的手腕を発揮する一方、国内の情勢を把握するために視察として各地に赴き、見聞を広めているという。また、国王が病床に伏したという好機を狙って国境を脅かそうとしていた北の隣国の侵攻を、自ら前線に立って戦い、軍の士気を揚げ、見事追い返した。

 それだけ聞くと、非の打ち所のない人物なのだが、王太子には以前から囁かれている噂がある。

 それは、王太子は女に興味がない、ということ。

実は、王太子の花嫁候補を集うのは、今回が初めてではなく、三回目なのだ。王太子はこれまで王宮に出向いてきた令嬢の誰にも目もくれず、まるで存在を否定するかのように冷たい態度を示す。王太子妃の座を射止めたいと意気込み、実家の期待を一身に背負ってやって来た上層階級の女性たちはプライドを傷つけられ、持久戦に持ち込んでも状況は変わらないことを悟ると、それぞれ意気消沈して家に帰っていったという。

そこで、貴族の女性たちの間でつけられたあだ名が、“氷の王太子”。嘘か真かわからないが、そんな相手にお目通りしに王宮へ行かなければならないとあって、フィラーナの心に落ちる憂鬱の影は色濃くなるばかりだった。

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