冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
(はぁ……今日も疲れた……)

 夕食後、自室に戻ったフィラーナはソファの上に崩れ落ちると、そっと瞳を閉じた。

 王宮から知らせが届いて以降、フィラーナの日常は一変してしまった。エヴェレット侯爵は、フィラーナの花嫁修業を母親代わりであるバートリー伯爵夫人に一任した結果、夫人は早速優秀な家庭教師を各分野から呼び寄せ、連日のようにフィラーナのレッスンに朝から夕まで付き添った。

 これまで当たり前だった自由は制限され、不用な外出も禁止された。ーー領地を守る騎士団の練習場にこっそり通い、母方の従兄で八つ歳上のクリストファーから剣術を教わることも。

(結局、やっぱり三週間前の港町が最後の外出になってしまったわ……)

 港町の情景がはっきりと思い出される。きらめく青い海、爽やかな潮風の香り、活気溢れる町並み。

 そして、自分を助けてくれた、銀髪の青年ーー。

 あの日、これで最後にするから、と伯母を説得して、私用で港町に行く父親に同行した。お目付け役の侍女を必ず伴うという、伯母の条件つきで。
 
 もちろん、『ライラ』というのは偽名だ。自分が侯爵家の令嬢だと周囲に知られると何かと不都合が生じるので、あの町に訪れる際はいつも、その名前で通していた。

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