冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
噂の氷の王太子
 フィラーナが生きてきた十七年の記憶の中で、最も大きくて栄えている街といえば、間違いなく港町ホーグだった。しかし、王都の光景を目の当たりにした今、それは確実に覆された。

 王都レアンヴールへ向かい、故郷を出発して三日目の午後。

 馬車の窓の外を流れる単調な草原と田園風景にも少々見飽きてしまい、座ったままいつしかウトウトと浅い眠りに落ちていたフィラーナだったが、身体に伝わる車輪の振動が土の地面を走る時と比べて随分滑らかになったことに気付き、眠い目をこすりながら何気なくカーテンを開けた。

 そして、息を呑む。

 商店が建ち並ぶ大通りのような広い道を、自分を乗せた馬車がゆっくりと進んでいる。石畳の歩道を行き交う人々の数も多く、何かの祭りでもあるのではと思わせるほど、街は活気に溢れていた。

(いつの間にか王都に着いたんだわ……!)

 そして視線を上げれば、街の中心部の小高い丘に建つ、七つの尖塔が美しい白い石造りの荘厳な城が見える。

(あれがお城……なんて立派なの……!)

 フィラーナは初めて見る王城に興奮し、淑女教育を受けた年相応の令嬢であることも忘れて、幼子のように窓に手を張りつけ、おまけに額もくっつけて、無心に王都の情景に見入った。世話係として実家から伴ってきた年配の侍女が、向かいに座したまま少し苦い表情をしてコホン、と小さく咳払いしたが、フィラーナの耳には届かない。

(あんなに王都行きが億劫だったのに、来て良かったと思ってしまうのって、都合が良すぎるかしら)

 口元に笑みを浮かべながら街並みを眺めているうちに、馬車は緩やかな坂を登っていき、城下町が少しずつ遠のいていく。

 そして、鉄門の前で馬車は一旦止まったが、御者と門兵のやり取りの後、門が開いて再びゆっくりと車輪が回り出す。
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