冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナは優しく微笑む。本当はもっと目立たない色みのドレスもあるのだが、フィラーナのための初仕事に張り切るメリッサの気持ちを無下には出来ない。とは思うものの、以前より王太子に対面する憂鬱な気持ちは少なくなっていた。

 到着順はフィラーナが最も遅く、今回集められた妃候補は八人。おそらく初回はもっと多かったと推測できるが、回を追うことに減っていったというのが現状だろう。王太子の悪い噂を耳にして、今回、慌てて娘の婚約者を他で探し、王宮からの通達を回避した貴族もいるかもしれない。

 人数の少なさに落胆しかけたフィラーナだったが、メリッサに他の候補者について尋ねると、容姿も美しく自信家の令嬢もいるようで、フィラーナはなんとなくホッとした。

(その方々に頑張っていただいて、殿下の心を動かしてもらおう。やっぱり、私みたいなやる気のない者がいたら、申し訳ないもの。じゃあやっぱり、目立たない色のドレスがいいかしら……でも、皆さん、明るい衣装だったら逆に悪目立ちしてしまうかも……)

 などと迷っているところで、まもなく謁見の時間です、との知らせが入り、フィラーナはメリッサによって慌ただしくピンクのドレスに着替えさせられたのだった。
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