冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
*  *  *

 着替えのついでに髪も少し整え直し、別の女官の案内で先ほどの回廊を再び戻り、城の方へ向かう。謁見の間へ通されるかと思いきや、それより手前にある小さな広間で待つように言われ、扉が開かれた。全員揃うための控え室であるらしい。

中に入ると、今回の候補者の令嬢が六人、すでに集まっていて、ソファに腰かけながら楽しそうに談笑している。皆、フィラーナの入室には気づいていない様子で、互いの家柄や着ているドレスを褒めたたえ合っている。

 全員、フィラーナと年の頃は同じように見えるなか、ひときわ目を引くのは、襟の大きく開いた派手な赤いドレスを身にまとい、ブロンドの髪を優雅に結った美しい顔立ちの令嬢だ。その全身から溢れ出る自信は隠しようがなく、よく見ていると彼女を中心に話が弾んでいるようだ。

(皆さん、すでに打ち解けている様子ね。ライバル同士、もっとギスギスしてるのかと思ってたけど。あら、あとのひとりは……?)

 確か、候補者は自分を含め八人のはず。不思議に思い、視線を別に移すと、ややそこから離れた壁際に立ち、窓の外を眺めているひとりの令嬢の姿を視界にとらえた。真っすぐな長い黒髪を藍色のリボンで飾り、やや地味とも取れる同色のドレスを着ている。明るい色で着飾ったほかの候補者との雰囲気も異なっていて、輪の中に入ろうともしない。

 フィラーナは少し気になって、静かに近づくと声をかけてみた。

「立っていると疲れませんか? 良かったら一緒に座りましょう?」

「え……?」
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