冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
「私がスフォルツァ王国王太子、ウォルフレッド・アンセル・ティオン・ハインディルクである」

 威厳に満ちた若い声が、謁見の間全体に響き渡る。

「王宮に呼び出されたそなたたちには申し訳なく思うが、この件は陛下のお考えに基づくものであって、私は一切関与しないことを伝えておく。陛下のご病状が回復された後、陛下がお決めになるだろう。だが、私は妃を必要としてない。どうしても妃を迎えねばならない場合は、形式だけのただのお飾り妃として、だ」

 王太子は花嫁候補の顔などもとより覚えるつもりがないのか、彼女たちの顔を上げさせることもせず、そのまま冷たい声でそう言い放った。

(いきなり、こんなこと言うなんて……やっぱり噂は本当だったんだわ)

 これも想定内、とフィラーナはまったくショックも受けず、床を見つめたまま嘆息する。『氷の王太子』などと密かに囁かれているのは、この発言が主な原因ではあるが、その麗しくも冷たそうな見た目も手伝ってのことだろう。

「そのような無意味な地位に見苦しくもしがみつき、周囲の笑い者になりたい娘は残るがいい。しかし、王宮に留まり無駄な時間を過ごすくらいなら、一日も早く帰って別の相手を探した方がそなたたちの身のためだ」

 王太子の一方的な宣言が終わると同時に、靴音が再びあたりに響き、次第に遠ざかっていく。
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