冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 フィラーナがそっと顔を上げた時には、王太子の姿は視界から消えていて、彼に従っていた騎士たちが退出していくところだった。その中のひとり、褐色の髪をした若者にフィラーナは見覚えがあった。

(あの人……港街でウォルと一緒にいた人に似てるわ。確か、ユアン、って呼ばれてたわね。こんな所で似た人にふたりも同時に会うなんて、偶然でもびっくりね)

 彼らが消えていった扉をじっと見つめる。

(あの時も今みたいに付き従うような感じだったし、旅仲間というより主人と家来みたいでーー)

 そう思ったところで、フィラーナは何か心に引っ掛かるものを感じた。

(似てる人がふたりも同じ場所に、しかも同時に存在するなんて、こんな不思議なこと、本当にただの偶然だと言えるのかしら……)

 フィラーナは、これまであまり気に止めていなかった王太子の名前が、“ウォルフレッド”だということを漠然と思い出した。

(……ちょっと待って……)

 ウォル、とは王太子の本名を縮めただけの呼称だとしたら。そして、『王太子は国内の情勢を把握するために視察として各地に赴いている』と言われている通り、あの日、騎士のひとりを伴い、旅人に扮してお忍びでたまたま港町に来ていたのだとしたらーー
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