冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
*    *    *

「何も毎回あのようなことを仰らなくても」

 窓から少しずつ夕刻の陽が差し込み始め、柔らかな光が王太子の執務室の中を照らしている。ウォルフレッドから本日最後の裁可書類を受け取ったところで、レドリーがおもむろに口を開いた。

「皆様、恐縮されて……いえ、呆気にとられていたんじゃないでしょうか」

「何度諫められても、俺の気は変わらない」

 ウォルフレッドは素っ気なく答えると、執務机に向かっていた体勢を少し崩し、椅子の背に身体を預けた。そのまま腕を組み、机の一点を見つめる。

「今日集められた令嬢のことで聞きたいことがある」

「はい、何なりと」

 レドリーは、やっと殿下が興味を持たれたか、と言わんばかりの満面の笑みである。ウォルフレッドは否定するように鋭い視線でレドリーを射抜くと、あからさまに大きくため息をついた。

「すでに縁談が決まっていたのに、何らかの理由で破談になった娘は含まれていたか」

「いえ、そのようなご令嬢はいらっしゃいません。どこからも縁談の話がないことを確認の上、選ばれた方々でございます」

 レドリーはウォルフレッドの質問の真意がわからないながらも、そう断言した。

「あの娘……蜂蜜色の髪をした者の名は?」

「ああ、最後まで立ち尽くしていらした方ですね。リシュレー地方を領地に持つ、エヴェレット侯爵家のご長女、フィラーナ様でございます」

「……フィラーナ……。エヴェレット侯爵家では剣技を習うことも淑女のたしなみとして奨励されているのか?」

「……と仰いますと……?」

「何でもない。もう下がってよい」
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