冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
出会いと遭遇と接近
 それから一週間。

 フィラーナは、朝目覚めると、優しい陽の光に導かれるように窓辺に立ち、カーテンを開けた。

 王都の空は快晴で、雲ひとつなく、ここ離宮からも眼下に広がる城下町を見渡すことができる。

(今日もいいお天気! 何しようかしら)

 故郷のリシュレーだったら間違いなく朝食後、屋敷を飛び出して湖水方面に向かって馬を駆り、森を散策し、草原に寝転んで青空を抱きしめたいところだ。

 だが、ここは王城の一角にある離宮。しかも、行動範囲も狭められていて外出も許可されていない。

(これじゃ、軟禁状態と変わらないじゃない。せっかく王都まで来たのに)

 最初こそ不満を覚えたフィラーナだったが、そもそも登城の名目は王都観光ではない。それに、離宮の設備で困ることも今のところない。特に図書室はさほど大規模ではないものの内容は充実しており、庭園は美しく、その先には緑豊かな森がある。ここでののんびりとした生活に早くも順応しつつあった。

 そう。妃候補たちによる“王太子妃の座争奪戦“のイメージとはかけ離れたのんびりとした空気に、離宮は今日も包まれようとしていた。それもそのはず、以前の発言通り、王太子本人が離宮を訪れる気配が全くないからである。

 他の令嬢たちはどうすることもできず、困り果てているかもしれないが、“不敬罪”の文字が頭をよぎるフィラーナにとって、王太子と顔を合わせないでいられるこの状況は、正に願ったり叶ったりであった。
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