冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 同様に振り返ったユアンが、不意をつかれたような間の抜けた表情に変わる。

 ユアンの目には映ったのは、先ほどウォルが助けた、蜂蜜色の髪のあの若い娘だった。彼女も、ウォルが突然立ち止まり自分の方へ向き直ったことに驚いたようで、立ち尽くしたまま微動だにしない。

「俺たちに何か用か」

 低く静かにウォルが尋ねた。

「えっ、ええと、さっきのお礼をちゃんと言ってなかったから……」

 娘は我に返ったように数回瞬きをすると、やっと口を開いた。

「助けてくてれありがとうございました。でも尾行するつもりはなくて、機会を逃しただけなんです。だって、あなたたち、とても足が速いんですもの」

 好感の持てる明るい笑顔を向ける娘を、ウォルは無表情のままじっと見据えた。

「……そんなことを言うためにここまでついてきたのか」

「そんなこと、じゃないわ。ちゃんと恩人にお礼を言うのは大切なことよ」

「だったら、大通りの途中で声を出して呼び止めたらいい」

「それも考えたけど、 そんなことをしたら、あなたたちが目立ってしまって困るんじゃないかと思って」

 確かに目立ちたくはないのは事実だ。だが、そのことを初対面の者に悟られ、さらには気遣われていたことがウォルは何だか気に食わなかった。

「こんな人通りの少ない路地にまで入り込んで見ず知らずの男たちを追いかけてくるなんて、危険な目にあっても自業自得だぞ。それともそういうのが趣味か」

 通常の娘ならば、『侮辱された』と憤るかもしれない。ユアンがやや咎めるような眼差しを送ってきたが、ウォルは応えずに受け流した。
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