冷徹皇太子の溺愛からは逃げられない
 すると、娘は神妙な面持ちで頷く。

「そうね、あなたの言う通り。私、昔から周りの人たちから向こう見ずだの跳ねっ返りだの言われてるの」

 そして、少し落ち込んだように肩を落とした。

 さすがに初対面の相手に言い過ぎたか、とウォルが後悔の念に駆られ始めたのも束の間、すぐに娘は澄んだ緑の瞳をまっすぐウォルに向ける。

「でも、“見ず知らず”の私を助けてくれて忠告までしてくれるあなたは、少なくとも悪い人じゃないと思います」

「別に忠告では……」

 子供のような純粋な微笑みを向けられて、ウォルはこの“呆れるくらい無邪気な跳ねっ返り”と話をすることがだんだん馬鹿らしく思えてきた。

「大通りに出るまで一緒に行ってやる。俺たちもこんな道に用はない」

 ため息まじりに言って歩き出す。ユアンがすぐにその後に続き、娘もウォルの横に並んだ。

「あなた方は旅をしてるの?」

 ウォルたちの格好からそう推測したのか、娘が話し掛ける。

「まあ、そのようなものだ。お前はこの町の者か?」

「いいえ、家はここから少し離れた所よ。時々、父の仕事の都合で、ついでに連れて行ってもらってるの」

「ひとりで出歩いて大丈夫なのか?」

「ええ、あまり遠くに行かないようにしてるし、家の外では自由でいたいから」

 では、家の中では窮屈なのか。

 ウォルは問い掛けようとしたが、やめた。名前も知らない、今しがた会ったばかりの赤の他人の事情に深入りする気はない。

「私も外の世界を知ってみたいけど……女には無理かもしれないわね」

 娘が少し寂しそうに微笑んだところで、ちょうど大通りに出た。

「ありがとう」

「別に礼を言われることじゃない。たまたま進む方向が同じだっただけだ」

 ぶっきらぼうに答えるウォルとは対照的に、娘は微笑みを絶やさない。

「さっき、ひとりで出歩いて大丈夫か、って言ったでしょう? 心配してくれてありがとう。じゃあこれで」

 娘は別れを告げて小さく手を振ると、ウォルたちの元を離れていく。しかし、数歩進んだところで何かを見つけると、道端へ駆け寄り、その場にしゃがんだ。
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