witch

「初めまして。神通時彦です。よろしく！」
男は、神通時彦と名乗った。
覚えようと思ったものの、さっきから初めて聞く名前を連続で聞いているため頭が混乱しそうだ。

「おい！作郎お前も挨拶しろ！」
時彦はさっき出てきた、奥の部屋に向かって叫んだ。

「あぁ、分かったよ親父。」
部屋の中から顔を出したのは、いかにもダルいですとでも言いたげな、小柄な少年だった。
髪の毛は父親の時彦とは違い、短いが全体的に跳ねている。
少年は口元を隠さないまま大きなあくびをした。

時彦はそんな少年に一発ビンタを入れた。
少年は眠気など吹き飛んだように姿勢を正しくした。
「僕の名前はー、神通作郎でーす。よろしくおねがーいしまーす。」
やたらと伸ばしたやる気のない挨拶が聞こえてくる。
時彦は作郎に再びビンタを入れた。


「時彦さん、この子の火傷を見てやってほしいんです」
長野先生は私の右腕を指差してそう言った。
私の右腕には痛々しい火傷の後がくっきりと残っている。
時彦は私の火傷を見ると作郎に何やら指示を出した。

「ちょっと待っててな。おじさんが治してやるから」
時彦は優しい笑顔で微笑んだ。
その時、私の頭に一つの疑問が浮かぶ。
「火傷なんて時彦さんに治せるの？」
その質問を聞いた時彦は「もちろん」と言った。

「親父！」
作郎が何やらバケツを持ってきた。
「待ったぞ！」
時彦は楽しそうな顔でバケツを受けとる。
「さぁ、腕を出してー！」
時彦はどこまでも楽しそうに言った。
私は言われた通りに腕を出す。
時彦は、私の右腕にバケツの水を思い切りかけた。
「えええ！？」
私は驚きのあまり大きな声で叫んでしまった。
隣でないとが耳を塞いで迷惑そうな顔をしている。
そんなとこより、
バケツの水をかけるって…。

そんな事を考えていると、私の右腕の火傷が消えて、痛みも嘘だったかのようになくなっていることに気づく。
「え？うそ、マジで？」
バケツの水で火傷が治るなんて思っていなかったから間抜けな声が出る。本当に今日は驚きっぱなしだ。
「ほら、もう治ったよ」
時彦は微笑みながらタオルで腕についた水を拭き取る。
その顔はどこまでも優しかった。
この人は一体何者なのだろう？

「時彦さん！ありがとうございます！」
長野先生が深々と頭を下げた。
「礼など要らんよ。私は自分のやりたいことをしただけさ」
時彦は長野先生にあの優しい笑みを向けた。
「時彦さん、本当に優しいんですね。尊敬します」
長野先生は少しはにかみながら笑う。
時彦は堂々と胸をはり、逞しく笑った。
「命の恩人と約束したんだ。化け物に苦しめられている人々を救うと。そのために修行だってしたんだ。私は本当に自分のやりたいことをした、そして約束を守っただけさ」
そう語る時彦の瞳はどこまでもまっすぐだった。