witch

翌日の放課後も、私は神通家へ向かった。
春の始まりを感じさせる、暖かい日差しを全身に受けながら、私は神通家のチャイムを鳴らす。
いつもの時彦さんの声がインターホンから聞こえ、家の中から玄関に向かってくる足音が聞こえる。

「こんにちは、すずねちゃん。さあ、入ってはいって」
時彦さんは玄関扉を全開にして、私に手招きをした。
家の中から木のいい香りが漂ってくる。

「何か作戦を思い付いたのかな？」
時彦さんは饅頭とお茶を用意しながら、私に尋ねた。
「ごめんなさい、まだ何にも…」
私は頭を軽く下げる。
とても用もないのに来ましたとは言えない。
私はこまり救出作戦で忙しい時彦さんを暇つぶしに利用してしまったことに申し訳なさを感じた。

時彦さんに出してもらった饅頭を食べ終わると私はお茶を一気に飲み干す。少し苦いお茶の味が気持ちよかった。
これから何をする？そんな事を考えながら辺りを見渡していると、庭の池の方で人影が見えた。

「あれは？？」
窓から見える人影を必死に見つめたが、ここからでは遠すぎて人物を特定する事は出来なかった。
もしかしたら、私の知らない別のお客さんかもしれない。
私には関係ない人かもしれない。なのに…









私は気づけば部屋を飛び出し、玄関へと向かっていた。
開け方の分からない玄関の鍵を必死に開けようとする。
時彦さんに言えば開けてもらえることは分かっていた。
でも、どこの部屋にいるか分からない時彦さんを探そうとは思わなかった。それより早く、早くあの人影の所に行きたくて。







何でこんなに必死だったのか、それは私にも分からない。
ただ、なぜかあの人影を無視したくなかったんだ。