witch
「うぅ」
私の近くで低く、唸るような声が聞こえた。
そこではないとがゆっくりと起き上がっていた。

「ないと!」
私は一目散にないとの元に駆けつける。
私を見たないとはビックリした顔で突っ立っている。

「ないと!大丈夫!?」
「お前、何で、俺こまりに殺されたはずじゃ?」
「ばか、私のためなんかに死なないでよ」
「お前のためじゃねーよ。俺はもう死にたかったからちょうどいいチャンスだと思ったんだよ」
「死にたいとか言うな!」

自分でも驚くくらい大きな声が出る。
色んな感情がごちゃごちゃになって襲ってくる。
それが何の感情なのか考える余裕なんてないけど。

「お前が俺を助けたんだな。俺はせっかく死ねると思ったのに」
ないとがため息混じりに呟く。
悲しい顔をするないとの顔を私はしっかりと見る。

「ねぇ、ないと。そんなに死にたいなら死ぬ方法を一緒に探そうよ!」
ないとの目が見開かれる。
自分でも変なことを言っているのは分かっている。

「だからさ、死ぬ方法を探すんだよ!死ぬなって言っといて変かも知れないけどさ、自殺するんじゃなくて普通の人間みたいに年をとって死ねる方法考えようよ!ね?」

ないとは驚きながらも否定的な表情は見せなかった。
心のどこかで僅かにでも期待があるのかもしれない。

「でも、俺はいじめられている」
「先生に言えばいいよ。何なら私がないとを守るよ」
「親とうまくいってない」
「毎日私に会いに来なよ。図書館とかで勉強でもいいし遊びに行くでも何でもいいからさ」
「自分の見た目が気に入らない」
「隠して歩きなよ。お面でも何でもいいじゃん」
「そんなんで学校はどうすんだよ?」
「そのままにしてなよ」
「あほか、お前は」
「な!失礼なやつ!」

思わず本気でツッコミをいれてしまう。
ないとは心底驚いた顔をしていた。
何だかおかしくなってきて、吹き出してしまった。
「あはは、何か変なの!」
笑いだした私につられてないとも笑いだす。
静かな森に私たちの笑い声が響き渡る。

「ないとの笑った顔初めて見た!」
「俺もお前の笑った顔初めてだ」
「そんなに私笑ってないー?」
「あぁ、いつもむすっとしてる!」
「あんたには言われたくないわ!」

私の目の前で笑うないと。
無邪気なその笑顔を、私は絶やしたくない。守りたい。
この時間が、一緒に笑顔でいられる時間がずっと続けばいい。
そう、心から思ったんだ。
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