困難な初恋
結局成瀬に言いこまれて、ゴールは付き合ってキスをするまで、と決まった。
何もしないで別れるという違和感満載の別れ方よりも、
その方が円満に別れられるとかなんとも強引な口説きで。
そして、またなぜか話に乗ってしまった俺は、
仕事帰り、早速、隣の営業第二部に寄り、ゲームの相手へのアプローチをしようとしていた。
20時半、残っていた社員も、そろそろ帰り始めるタイミング。
宮川秋葉(ミヤガワアキハ)
頭の名で名前を復唱する。
営業第二部(成瀬の部署。ちなみに俺は一部)の営業アシスタント。今年の春に中途採用で入社をしてきた28歳。
髪は肩くらいまでの黒髪で、化粧っけはあまり無い。
顔・・・も特に印象に残ってはいないが、可も無く不可も無く。
特筆すべきは愛想の無さ。今回のターゲットに選ばれてしまった理由でもある。
客先とのやり取りでは評判は高い。ミス無く、処理スピードも良い。
今年の入社者の中では3本の指に入る「当たり」の人材だろう。
ただ、飲み会に誘ってもこない、女子のランチにも行かず自席で弁当、廊下ですれ違って挨拶をしたら、礼儀上の挨拶は返してくるが、それ以上の笑顔も言葉も無い。
なんでまた・・・
こんなゲームをしている自分が一番何故、なのだが、やっぱり軽くて明るい子を落とすのは楽しさも感じてしまっている。
分かりやすくて、返ってくる反応がいい。
ただ、こういうタイプは初めて。これまで避けてきたのもあるが・・・
一番は、本気になられたら困る。
対処に困りそうだ。
考えている間に、宮川秋葉はPCをシャットダウンし、帰る準備を始めたようだ。
コンコン、と壁をたたき、呼びかける。
「すみません、ちょっと第二の成瀬に用があってきたんだけど、もう帰ったかな」
彼女はくるりと振り返り、顔色を変えずに言った。
「今日は19時くらいには帰られていたと思いますよ。」
その時、初めて目があった。
肌は白い。化粧も薄いのに、目はパッチリとしている。
あれ、この子、笑ったら可愛いんじゃないの。
そう思いながら、言葉を返す。
「そっか。残念。宮川さんも遅いね」
第二部の他の社員は、ぽつぽつと残っているだけで、女性社員は一人もいない。
「いえ・・・」
ぴた、とそこで会話が終わってしまった。
通常であれば、俺が話しかけた時点でたいていの女子は色めき立ち、「松原さんも遅いんですね」なり、「帰りですか?だったら駅まで・・・」なり、食いついてきてくれるが、
さすがに噂通り、そんなに簡単にはいかないか。
こういうタイプは、距離間を詰めるのは慎重にしないといけないな。
「良かったら、一緒に下まで降りる?」
彼女も手にかばんを持ち、今にも出られる状況。駅までだと抵抗感もあるかもしれないが、さすがにエレベーターくらいは一緒に乗ってくれるだろう。
「あ。いえ、大丈夫です。」
俺の楽観は一瞬で吹き飛ばされてしまった。んー、手ごわい。
「そっか。ごめんね。じゃぁ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
くるりと踵を返し、さっさと立ち去る。流れで一緒に帰れたら良かったが、さすがに無理か。はぁ、とため息をつきエレベーターにのる。
ただ、仕事だけの頭から、こういうことを考えると、頭が切り替わって気分転換にもなっているのは確か。
「ほんと、サイテーだな」
苦笑しながらぼそっと落とし、帰路についた。
何もしないで別れるという違和感満載の別れ方よりも、
その方が円満に別れられるとかなんとも強引な口説きで。
そして、またなぜか話に乗ってしまった俺は、
仕事帰り、早速、隣の営業第二部に寄り、ゲームの相手へのアプローチをしようとしていた。
20時半、残っていた社員も、そろそろ帰り始めるタイミング。
宮川秋葉(ミヤガワアキハ)
頭の名で名前を復唱する。
営業第二部(成瀬の部署。ちなみに俺は一部)の営業アシスタント。今年の春に中途採用で入社をしてきた28歳。
髪は肩くらいまでの黒髪で、化粧っけはあまり無い。
顔・・・も特に印象に残ってはいないが、可も無く不可も無く。
特筆すべきは愛想の無さ。今回のターゲットに選ばれてしまった理由でもある。
客先とのやり取りでは評判は高い。ミス無く、処理スピードも良い。
今年の入社者の中では3本の指に入る「当たり」の人材だろう。
ただ、飲み会に誘ってもこない、女子のランチにも行かず自席で弁当、廊下ですれ違って挨拶をしたら、礼儀上の挨拶は返してくるが、それ以上の笑顔も言葉も無い。
なんでまた・・・
こんなゲームをしている自分が一番何故、なのだが、やっぱり軽くて明るい子を落とすのは楽しさも感じてしまっている。
分かりやすくて、返ってくる反応がいい。
ただ、こういうタイプは初めて。これまで避けてきたのもあるが・・・
一番は、本気になられたら困る。
対処に困りそうだ。
考えている間に、宮川秋葉はPCをシャットダウンし、帰る準備を始めたようだ。
コンコン、と壁をたたき、呼びかける。
「すみません、ちょっと第二の成瀬に用があってきたんだけど、もう帰ったかな」
彼女はくるりと振り返り、顔色を変えずに言った。
「今日は19時くらいには帰られていたと思いますよ。」
その時、初めて目があった。
肌は白い。化粧も薄いのに、目はパッチリとしている。
あれ、この子、笑ったら可愛いんじゃないの。
そう思いながら、言葉を返す。
「そっか。残念。宮川さんも遅いね」
第二部の他の社員は、ぽつぽつと残っているだけで、女性社員は一人もいない。
「いえ・・・」
ぴた、とそこで会話が終わってしまった。
通常であれば、俺が話しかけた時点でたいていの女子は色めき立ち、「松原さんも遅いんですね」なり、「帰りですか?だったら駅まで・・・」なり、食いついてきてくれるが、
さすがに噂通り、そんなに簡単にはいかないか。
こういうタイプは、距離間を詰めるのは慎重にしないといけないな。
「良かったら、一緒に下まで降りる?」
彼女も手にかばんを持ち、今にも出られる状況。駅までだと抵抗感もあるかもしれないが、さすがにエレベーターくらいは一緒に乗ってくれるだろう。
「あ。いえ、大丈夫です。」
俺の楽観は一瞬で吹き飛ばされてしまった。んー、手ごわい。
「そっか。ごめんね。じゃぁ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
くるりと踵を返し、さっさと立ち去る。流れで一緒に帰れたら良かったが、さすがに無理か。はぁ、とため息をつきエレベーターにのる。
ただ、仕事だけの頭から、こういうことを考えると、頭が切り替わって気分転換にもなっているのは確か。
「ほんと、サイテーだな」
苦笑しながらぼそっと落とし、帰路についた。