困難な初恋
そこからの一週間は、今度は猛アプローチに切替。

冗談にとらえられるくらいがちょうどいいと、会うたびにはっきりと誘いを口にするようにしてみた。

「宮川さん、これからランチ?良かったら一緒に「お弁当あるんで」

「最近ほんと仕事の量多いよね~。気分転換に飲みに行かない?成瀬も一緒に「大丈夫です」

「あ、今から外出?駅まで一緒に「お手洗い寄るのでどうぞお先に」

連打するもことごとく一蹴。こんな経験、今まで人生であっただろうか。

「おっまえ、何あのコントみたいなの」

再び給湯室で会った成瀬が声をかけてくる。
「噂になってんぞ、松原さんが宮川さんに猛アプローチ中って」
ニヤニヤ笑いながら嬉しそうに言う成瀬に返す。

「や、あの子は多分、強引に持っていくくらいがちょうどいいかと思って。」

「へー、珍しい。結構興味もってんじゃん」

成瀬が不思議そうに言ってくるので、少し心がざわっとして返した。「ゲームの相手なんだから、興味持たないとだめだろ」

ふーん、とニヤニヤしながら言う成瀬を横目でにらみ、タバコに視線を戻した。でも、このまま断られ続けてもおそらく前には進まない。何かもう一つ、きっかけが欲しい。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

そのきっかけは、予想以上に早く訪れた。

その日は成瀬の営業同行で秋葉も外出。そのまま営業先と飲み会があると聞いていた。俺は俺で営業第一での飲み会があり、終電近くもなったので、駅へと向かっていた。

「宮川さん~、お願い、もう1件行こうよ」

聞きなれた名前が聞こえ、ぴくりと反応する。

声のした方向を見ると、営業先メーカーの部長が、秋葉の肩を抱きながらしつこく迫っていた。

おいおい、成瀬は、と思って回りを見渡しても、ほかには誰もいない。

なにやってんの、と早足で近づいた。

「こんばんは、井上電器の井上部長ですよね、ご無沙汰しております。松原です。」

声をかけられて驚き、井上は秋葉からぱっと手を離した。

「あ…?あ、あぁ!久しぶりだね、松原くん。今日は成瀬くんたちと食事をしていてね。楽しかったと伝えておいてくれ。お疲れ様!」

早口でそうまくしたてると、さっさとその場を去って言った。

悪酔いしていただけかもしない、すぐ引いてくれてよかった。

振り返ると、秋葉が自分を抱きしめるようにしながら立っていた。

「大丈夫?」

これまで何度かかけた言葉をまたかける。

でも今回、返ってきた言葉は違った。

「大丈夫じゃないです」

え?なに、それ、なにその可愛い言葉。そんなこと言っちゃう?

「大丈夫じゃない?落ち着くまでどっか、カフェでも入る?」

一瞬無言の後、秋葉が言葉を発する。
「いいですか?」
上目遣いで恐る恐る。

いいよいいよもちろん、むしろラッキー・・・という心の声はおいておいて、近くのチェーン店に誘った。
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