凛々しく、可憐な許婚
「せっかくの祝いの席だ。食事をしながら話そう」

咲夜の父 兼貞が仲居を呼んで、食事を開始させた。

おいしいはずの食事の味が全くわからない。

"なんのお祝い?この婚約話が本当だと言うこと?"

箸をもったまま固まる咲夜に

「これ、咲夜。はしたないぞ」

と、祖父 義明が嗜めた。

「すみません。一人だけ茅の外に置かれているようで考え込んでしまいました」

「おじさん、咲夜ちゃんに何も話してなかったんですね。意地が悪い」

道実が、義明を馴れ馴れしい口調で責めている。

気難しい義明にこんな口を聞けるのは、他人では道実くらいだ。

幼い頃、兼貞と幼馴染みだった道実は、両親とこの旅館を訪れては、兼貞の父親である義明に遊んでもらったり、食事をご馳走してもらったりして過ごした。

一緒に露天風呂にも入る仲であり、気心が知れているのだ。

「言ったら、この場に来なかった可能性が高い。咲夜は考え込む性格だから、当日に知らせるくらいが丁度いいんだよ」

ふふん、と義明が鼻をならして、日本酒を飲み干す。

「咲夜、聞いたかも知れないが、お前は10年前から尊くんの許婚だったんだが、この度、結婚することが正式に決まったのだよ」

「け、結婚,,,が決まったの?婚約すらも飛び越えて?」

呆然とする咲夜を無視して、笑顔で料理を口に運びながら義明は頷いた。

「尊くんが公約を果たしたら、咲夜と結婚させてやると約束した」

「そんなの聞いてない!」

「言ってないからな。」

義明の憮然とした態度に言葉がでない。

「なんだ?咲夜は尊くんでは不服なのか?こんなに男前で優秀なのに」

と、兼貞も不躾な質問をする。

「ふ、不服なんて恐れ多い,,,!」

思わず、咲夜が本音を口にすると

「なら、決まりだ」

と、男4人は大きく頷いて、呆ける咲夜を置き去りにしたまま、満足した顔で食事を再開した。




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