凛々しく、可憐な許婚
「美味しかったね。"颯矢天"の料理はいつ食べても飽きがこない」

帰りの車に乗り込むまでの道すがら、尊は、咲夜に笑顔でそう言った。

咲夜の返事はない。


,,,食事中、黙り込む咲夜をいいことに、4人の男性は、ビジネスの話や弓道、ゴルフの話で盛り上がっていた。

咲夜は、そんな4人を尻目に、今日一日に起こったことを頭の中で整理していた。

"鈴木先輩に8年ぶりに再会して"
"10年前から許婚だったと言われて"
"同じクラスの担任と副担任で"
"弓道部の顧問と副顧問で"
"練習の延長で、個人戦のデモをして決着がつかず,,,"

いろいろありすぎて頭の中が追い付かない。

"しかも、鈴木先輩と結婚?なんじゃそりゃ~ぁぁ?"

咲夜が、大混乱の渦に落ちていくなか、つつがなく、婚約式は終了したと兼貞が告げるのが聞こえた。

「結納は来週、結婚式は三ヶ月後ね」

そういいながら、道実が、昼間に弓道場で撮ったとおぼしき、尊と咲夜の写真を,自分以外の3人に見せているのが目に入った。

「スマホのは、尊と咲夜ちゃんにも送るね」

ピコン、とスマホのSNSの着信音が響いた。

画面には、尊の袴姿と凛々しい"会"の姿が写し出され、思わずみとれる。

「咲夜さんのことは、僕にお任せください。幸せにします」

突然、姿勢を正した尊が、プロポーズのような言葉を口にした。

目の前に"結婚"の2文字が現実として現れる。

気づけば、咲夜は、その場に立ち尽くしてした。

「よろしく、僕の咲夜姫。もう逃れられないよ」

咲夜の方に目を向けた尊は、

天使の微笑みで、悪魔のような言葉を囁いたのだった。
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