凛々しく、可憐な許婚
「,,,さくや、咲夜、着いたよ」

まどろみの中、誰かが咲夜を呼ぶ声が聞こえる。

ゆっくりと瞼を開けると、目の前に綺麗な尊の顔があって驚く。

「ごめんなさい、私、眠ってしまって」

「大丈夫。可愛い寝顔が見られたし、無防備になるってことは、少しは俺に警戒を解いた証拠でしょ」

尊は運転席から降りると、助手席のほうにまわってドアを開けた。

「さあ、帰ろう」

差し出された手を戸惑いながら(顔には出ていない)掴むと、咲夜は尊と共にエレベーターの方に向かった。

途中の専用スペースに咲夜の愛車が戻ってきているのが見えた。

「鈴木先輩、ここからは一人で大丈夫です。セキュリティも万全ですし」

「いや、俺もここに住んでるから」

「えっ?」

「行こう」

そういえば、尊も今日からこのはな学園の先生だから、職員寮であるこのマンションに住むのはなんら問題がない。

"でも、先輩、今『ここに住んでる』って言ったような,,,"

尊は、戸惑う咲夜の手を引いてエレベーターに乗り込むと、迷わずに18階のボタンを押した。

「先輩、私の部屋は10階,,,」

「黙って」

突然、視界が遮られる。

目の前には尊の逞しい胸板。

"私、今、先輩に抱き締められてる?"

どちらのものともわからない鼓動が、耳元でこだまする。

"チン"

とエレベーターが目的地に着いたことを知らせると、尊は再び咲夜の手を引いて歩き出した。
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