凛々しく、可憐な許婚
「,,,じゃあ、尊くんは大学を卒業してからMBAを取得したんですね」

「実は俺、大学を卒業してから2年間、大学院で経済学を学ぶことにしたんだ。いきなりMBAにチャレンジしても合格するとは思えなかったし。その後は、このはな学園横浜校の事務局で働いて、学園の経営コンサルタントから実地で学びながら、2年前にアメリカの州立大学のオンラインプログラムに入学した」

紅茶を飲みながら、咲夜は尊から、祖父と交わした公約がどのように果たされていったのか、続きを聞いていた。

「日本にいながらMBAを取得するには、最短でも2年かかる。入学資格にTOIEC700点以上が義務付けられてるから、入学までの期間は、夜に英語の専門学校に通ったりして遊ぶ暇はなかったよ」

尊は当時を振り返って、懐かしそうに言った。

「それで、先月、ようやくMBAを取得して、晴れて今日と言う日を迎えられたという訳です」

聞く限りでは、確かに遊ぶ暇はなさそうだった。

「どうして大学の学部選択の段階から経済学を専攻しなかったんですか?」

「経済学を学ぶのはあくまでも経営者としてのオプションで、一番興味があったのは教師だったからだよ」

尊は長男。いずれこのはな学園の経営すべてを引き継ぐことになる。学園の未来を守るには、尊の手腕が重要であることに間違いはない。

咲夜は長女だが、10年前に15才離れた弟が生まれたため、祖父や父の事業を引き継ぐ必要はなくなった。

とは言え、弟が大人になったときに経営能力が備わっているかどうかは未知数のため、

『万が一のために咲夜の伴侶には経営能力のある者を求めている』

と、義明は尊に宣言したようだ。

「弓道の段位と資格は、お祖父様の道場の後継者として相応しくあってほしいとの願いから出されたもの。俺の父が元気なうちは、教師として働いてほしいという願いもあったから、教員免許をとる約束が追加された。後の2つは、咲夜のために、俺が男として信用に足る人物か試したかったんだと思う」

「だからと言って、こんな風に、尊くんの自由を奪うような約束で縛っていい理由にはなりませんよ」

咲夜が悲し気な表情を浮かべると、尊が優しくそれを否定した。

「君だって、お祖父様から課せられた課題をこなす生活を強いられてきただろう?色々な資格を取ったって聞いている」

「それは、お祖父様は私の血の繋がった身内ですし、私のためになることであると、私自身が理解してやっていたことですから無理強いはされてません」

「俺もそうだよ。君が一生懸命課題に取り組んでいる姿を見て頑張ろうと思えたんだ」

「えっ?私のこと見てたんですか」

「ずっと見てたよ」
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