凛々しく、可憐な許婚

むくわれた思い

「他に質問はない?」

「いえ、大筋は理解しました。尊くんの精神力の強さに脱帽です」

咲夜の言葉を聞いて、尊の表情が少し陰るのがわかった。

「そんなことはないよ。今でも凄く揺らいでる」

「尊くん?」

咲夜は、無意識に、微笑みながら首を傾げるあの癖をしていた。

尊が咲夜をぎゅっと抱き寄せる。

「手の届くに距離に君がいて、俺だけに微笑んでくれる。この状況がこの上なく贅沢なことだってわかっているのに、どんどん欲深くなっていく自分が情けないんだ」

咲夜を抱き締める尊の腕が少し震えていた。

「ここまで待ったんだ。結婚するまでの後3ヶ月くらい待てると思っていた。だけど、君を前にしたらどうしても理性が効かない。これじゃ、大河内と変わらないってわかっているのに」

尊は咲夜の体から少し距離をとると、咲夜の目を見つめて言った。

「キス、してもいい?」

咲夜は、驚いて顔を真っ赤にしたが、ゆっくりと頷いた。

無理矢理キスしようと思えばできる状況だ。

それでも咲夜の気持ちを大切にしてくれる尊を、咲夜はいとおしく思った。

二人は目を閉じると、どちらからともなく顔を近づけて唇を重ねた。

初めて恋心を抱いたあの日から8年の時を経て、唇だけでなく二人の気持ちも重なった瞬間だった。
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