凛々しく、可憐な許婚
翌朝、先に目覚めたのは咲夜だった。

朝の6時。

平日、休みに関わらず、咲夜は定時に目が覚める。どんなに夜更かししても変わらない習慣だ。

咲夜は見慣れぬ景色に、一瞬、自分が寝ていたのがどこかわからなくて混乱しそうになったが、隣に眠る尊の綺麗な寝顔を見て、状況を理解した。

咲夜は、そっとベッドから抜け出すと、洗面を済ませて、キッチンに向かった。

冷蔵庫は一つだけ、咲夜が使っていたものが置かれている。

尊が使っていた冷蔵庫は、咲夜が引っ越してくるからと処分したのかもしれない。

咲夜の冷蔵庫の中には、おととい、咲夜が買い込んだ食物以外にも、尊のものと思われるビールやミネラルウォーターなどが入っていた。

咲夜の朝食は基本的に和食だ。

味噌汁の出汁をかつお節でとり下ごしらえをする。おかずはおひたしと焼き魚、卵焼きにしようと決め、調理を始めた。

それらが半分くらい完成したところで、

「咲夜」

と、尊が呟く声がした。

振り向くと、困惑したような表情の尊が立っていて、背中側からふわりと咲夜を抱き締めてきた。

「俺から離れるときは、起こしてもいいから必ず声をかけて。目が覚めたら咲夜が居なくて、また一人に戻ったのかと落ち込んだ」

甘えるような尊の言葉を受けて、咲夜の顔に笑みがこぼれた。

「わかりました。案外、尊くんは寂しがり屋なんですね」

「咲夜限定だけどね。昨日で十分わかったでしょ?」

「そうだったかな?」

咲夜が誤魔化すと

「朝食、美味しそうだね」

と、肩越しに尊が言った。

「ありあわせのもので作るから、十分とは言えないかも知れませんが」

尊は、咲夜から体を離すと朝食の準備を手伝った。

朝食が完成すると、二人でテーブルに運び"いただきます"と手を合わせた。

「旨い」

「良かった」

何気ない朝のやり取りだが、長年待ち続けた尊にとっては至福の一時に違いなかった。
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