凛々しく、可憐な許婚
弓を構える尊は正に王子だった。

王子とはいっても、袴を着ている純和風の王子なので、殿というべきか?

いや、和風とはいえ、やはり王子には違いない。

構えも残心(矢を打ち終わった姿)も美しい。

そして、四ッ矢すべて皆中。

こんなに綺麗な男子、こんなに綺麗な射形を見たことはないと、咲夜は見とれていた。

しかし、表情に出さないので、そんな浮き足だった心は、回りの同級生や先輩には一切ばれていなかった(と思う)。

次が練習の順番だと先輩に促され、咲夜は慌てて準備をした。

このはな学園と入れ替わりで、新清涼女学院が練習に入る。

王子とすれ違う際、一瞬、王子と目が合ってドキッとしたが、道場の神棚に一礼したら、そんな浮わついた心もどこかに行ってしまった。

咲夜の団体戦の立ち位置は"落ち"と呼ばれる五番立ち。

試合の落ちを決める責任のある立場だ。

一年生なのに"落ち"なんて、と先生や先輩に断りをいれたが、いつも落ち着いている(ように見える)"外さない"咲夜は、結局"落ち"を任されてしまった。

自分の番がくる。

弓を打ち起こし、構え、引いてから、静かに胆田(おへそ)に力を込めて、的を見据えて無心で矢を放つ。

それを四回繰り返してから、最後に、咲夜は道場を退場していった。

今回も安定の皆中。

「よっしゃ」

射場を出ると、顧問や先輩、同級生からねきらいの言葉をもらう。

「今年の新清涼女学院、すごい子がいるね」

と、近くにいたこのはな学園の女子生徒が呟くのが聞こえた。

「そうだね」

低くて魅力的な声が同意を示す。

鈴木尊だ。

咲夜が声の方を見ると、尊がじっと咲夜を見つめているのに気づいた。

"な、何?"

咲夜は、周りをキョロキョロ見渡して何か注目するものがあるのかと探すが、

"何もない"

もう一度、ビクビクしながら尊の方を見たが、尊は友達と談笑していて、もうこちらは見ていなかった。


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