凛々しく、可憐な許婚
「まあ、貴方が咲夜さんね。噂通りの可憐な大和撫子だこと」

「光浦咲夜です。挨拶が遅くなりまして申し訳ありません」

尊の実家は、このはな学園から二キロほど離れたところにある。

尊の父である道実は、以前、このはな学園横浜校に勤務していたため尊も中学までは横浜に住んでいた。

高校受験を控えたある日、祖父が急逝したため、その息子の道実が本校の学園長に決まり、家族揃って東京に引っ越すことになったのだ。

本校には、尊が新学園長の息子であることを知る者はいなかったため、尊は事実を隠してこのはな学園高等学校(本校)に入学し、学園の男子寮に入寮した。

担任以外には学園長が父であることは秘密にされ、担任にも特別扱いをしないようにとのお達しが出た。

高校時代、同じ学校の生徒がその事実を知らなかったのだから、他校の咲夜がそのことを知るはずはなかった。

「尊は高校生の時は寮に入っていたけど、大学と大学院に通ってた間は、公約達成のために実家暮らしをしていたの。衣食住だけでも楽をさせてあげなければ体を壊してしまうくらい頑張ってたから」

尊の母、友子は紅茶とお手製のお菓子をテーブルに並べると、自身もソファに腰かけくつろいだ様子で話し始めた。

今日は、尊の父、道真は学校関係の集まりがあり不在だった。

「インターハイであなたに会ってからの尊は、それはもう一生懸命で。単に一目惚れしたっていうだけではないのよ。弓道でも、学業でもずっと先を歩いているあなたは、尊にとって追いつき、追い越したい存在でもあったの」

進学率の高い新清涼女学院の特進クラスで、咲夜は常に成績トップだった。

"文武両道は当たり前"

幼い頃から祖父の厳しい教えを受け、集中することに長けている咲夜は、勉強でもその能力を発揮していたのだ。

咲夜は日本が誇る最高学府の大学を出ている。

尊が受け取った釣書には、当時ですら非の打ち所のない咲夜の能力が余すところなく書き連ねてあった。

「その時点で完全に負けていると思ったよ。だけど本当の天才なんてたった一握りしかいない。咲夜は並々ならぬ努力家なんだと、父から聞かされていた。だからこそお祖父様の申し出を引き受け、君と対等な位置に並べるように努力したいと思ったんだ」

男性とか女性とかそんなものは軽く飛び越えて、咲夜を一人の人間として対等に扱ってくれる尊は"最高のパートナー"ではないか、と咲夜は嬉しくなった。
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