凛々しく、可憐な許婚
更衣室に戻ると、弥生も咲夜と一緒についてきた。

「ここは私が担当するからあなたは渡辺様のフォローに入って」

「でも,,,」

「私は光浦様と知り合いなの。だから任せてちょうだい」

ブライダル部門の主任である弥生は、尊と咲夜、二人の母親がこのフロアに来た時には、他のお客様の接客中で不在だった。

急な担当者の変更で戸惑うスタッフに対し、笑顔で接する弥生。

先ほどまでの戸惑った表情とは打って変わって、満面の笑みを浮かべている。

「お知り合いなら主任の方が適任ですよね。わかりました。私は渡辺様のフォローに入ります」

駆け出していったスタッフが去ると、広い更衣室には、咲夜と弥生だけになった。

「許婚であることを知ったのは一昨日って本当なの?」

咲夜のウエディングドレスのファスナーを下ろし、脱ぐのを手伝いながら、弥生が聞いてきた。

弥生は咲夜の背中側に立っているので、弥生の表情は見えない。

「うん、それに一昨日から一緒に住むことになって、昨日は、それぞれの実家に挨拶に行ったの」

そして、尊がこのはな学園高等学校に着任してきたこと、同じクラスで担任、副担任をすること、弓道部の顧問として一緒に活動することを伝えた。

「結婚のことは学園の職員と生徒には内緒にする予定なの。だから、弥生ちゃんも内緒にしててくれる?」

何かにすがるような目で、首を傾げて見つめてくる咲夜に、弥生は顔を赤らめて目を背けた。

「大丈夫よ。私たちには守秘義務があるから知り得た情報を漏らしたりしないわ。でも、突然、職場が一緒になった上に、直前まで知らされない結婚なんてそんなのありなの?」

当事者である咲夜も驚いたのだから、他人の弥生が驚くのも無理はない。

元々、弥生は咲夜に対して過干渉な部分があると高校時代の知人から言われ続けてきたが、今日は特に激しく感じられる。

「私がどうこう言える立場じゃないのは承知しているけど、咲夜の友人として納得いかないところもあるわ」

弥生にとって、咲夜と尊の結婚は悲しみでしかないに違いない。

「,,,ところでこの写真だけど,,,やっぱり鈴木先輩は何を着ても格好いいわね。,,,もちろん、咲夜ちゃんは綺麗でお似合いだけど,,,」

スマホを操作しながら、弥生が先程撮影した尊と咲夜の写真を咲夜に見せながら、ウットリして言った。

「この写真、勝手に撮っちゃったけど、記念に貰ってもいい?咲夜ちゃんにも転送するから」

弥生の言葉に咲夜は頷くしかなかった。

きっと、尊の写真が欲しいのだろうと推測できたから。

「後で鈴木先輩の連絡先も確認するわね。私が二人の結婚式の担当をするから」

好きな人の結婚式を担当しなければならないなんてどんなに辛いことだろう。

いくら仕事とはいえ、本当は断りたいに違いない。しかし、動き出した歯車はそう簡単には止まらない。

「ありがとう、弥生ちゃん」

ウエディングドレスとビスチェ、髪飾りを取ると、咲夜は弥生と連れだって更衣室を出た。
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