凛々しく、可憐な許婚
「咲夜、疲れた?」

ホテルを出て、二人の母親と別れたあと、尊と咲夜はジュエリーショップに来ていた。

「一昨日から出ずっぱりだし、昨日は、その,,,無理させたから」

尊が二人の情事のことを言っているのがわかって、咲夜は顔を赤らめた。

「大丈夫です。尊くんこそ疲れてませんか?」

「男は疲れたりしないよ」

尊が苦笑するのを見て、咲夜は更に真っ赤になった。

「また、敬語に戻ったね」

尊に言われて、咲夜もその事に気がついた。

「ごめんね」

「いいよ、そのうち慣れる。,,,それよりこれなんかどうかな?」

尊が薦めてきた結婚指輪は、エンゲージリングと連着できるものだった。

シンプルなのに可愛らしいデザインは普段付けていても抵抗はなさそうだ。

「教師の3ヶ月分の給料なんて知れてるけど、それなりに貯金もしてたんだ。咲夜が好きなのを選ぶといいよ」

「ううん、これがいい」

咲夜はアクセサリーに思い入れはない。尊が気に入ってくれたものが一番素敵な贈り物になる。

「本当に?投げやりになってない?」

真剣に考えていないように見えるのだろうか?

確かに、咲夜の心の中には、弥生への罪悪感と今後の成り行きに対する不安が渦巻いていた。

だからといって投げやりになっているわけではない。

「尊くんが私に似合うって思って選んでくれたんでしょう?それが嬉しいからいいの」

笑顔で首を傾げて、本音を伝える。

「わかった。これにしよう」

"笑顔が引き吊ってないよね"

尊と咲夜は指輪の購入を決めると、支払いをしてジュエリーショップをあとにした。

特殊加工をして、文字をいれるため、納品は2週間後になるそうだ。

"今日はもう帰りたい"

明日は学校。仕事は午前中だけだが、昼から部活がある。

咲夜は重たい体と心を抱えたまま尊と暮らすあのマンションへの家路に向かうのだった。
< 51 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop