凛々しく、可憐な許婚
"ピンコン"

今日はやたらとSNSの着信音が鳴る。

尊のスマホだ。

夕食を終えて、後片付けをしていた咲夜は、

"弥生ちゃんからかな"

と、ポンヤリ考えていた。

気になるなら、ただ一言尋ねればいいことだ。

しかし、咲夜はどんなに親しくても他人のプライバシーに踏み込むことができない。

咲夜は幼い頃、なにか質問をしようとすると

"知らなくていい。子供は黙って大人の言うことを聞いていればいいんだ"

と、祖父に言われることが多かったため、他人の気持ちや本音を確認することがすっかり苦手になってしまった。

だから、本当に嫌なこと以外は嫌とは言えない。

大河内からのアプローチに対しても、曖昧に返していたためにストーカー行為に繋がってしまったのではと思っている。

やんわりと断る術は覚えた。大概の人はここで引いてくれる。

"だけど尊や弥生のように強引に事を進める人には?"

尊のことは好きだ。

弥生のことも嫌いではなく、見かけによらずサバサバした性格が好きだった。

これまで、弥生の咲夜に対する過干渉の理由を確認したことはない。

「はぁ」

咲夜は今日、何度目になるかわからないため息をついて、リビングのソファに座る尊に近づいて言った。

「尊くん、私、今日は自分の部屋で寝てもいいかな」
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