凛々しく、可憐な許婚
新学期がスタートした。

尊と咲夜の関係は、あのウエディングドレスを試着に行って以来、大きな変化はないままだった。

尊は相変わらず、弥生と連絡を取り合っているようで、夜になると電話で披露宴の打ち合わせをしている様子を咲夜は見ていた。

「俺が準備を進めるから、なにも心配しなくていいよ」

という尊に、

咲夜は、自分の事でもあるのに尊に任せきりでいいのかなという思いと裏腹に、弥生と関わらなくて済むという状況に逃げている自分が段々嫌になっていた。

言い寄ってくる吉高に対しても"好きだ"とか"付き合ってほしい"とか言われた訳ではないので、曖昧に受け流すしかない状態が続いていてうんざりしていた。

しかし、気の抜けない状況でも自分を律する強い精神力を持つ咲夜は、確かに"鋼の天使"と呼ばれるだけあって、生徒を前にすれば完璧な教師だった。

進級して初めて受け持ちとなった2年4組の生徒を前に、咲夜は凛とした姿で向き合う。

隣には、副担任である尊も並んでいる。

美しい二人の教師を前にして、生徒達はただ呆然としている。

「難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」

咲夜は、百人一首の読み手のように美しい声で、競技カルタの序歌を読み上げた。

「長い冬が終わってようやく花が咲き乱れる春が来ました。皆さんの担任で国語担当の光浦咲夜です。1年間皆さんと一緒に成長していきたいと思います。よろしくお願いします」

「今年度、横浜校から異動してきました、化学を担当する副担任の鈴木尊です。光浦先生と共に、このクラスの一員として全力を尽くしたいと思います。どうぞ宜しく」

生徒を前に丁寧にお辞儀をする教師はなかなかいない。

生徒達は初日から、この魅力的な教師二人に感化され、新しく始まる学園生活に心を踊らせることになった。
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