凛々しく、可憐な許婚
尊が歓迎会会場に着くと、咲夜はすでに司会者席周辺におり、他の幹事やホテル関係者と打ち合わせをしていた。

緋色と濃紺の袴、耳下のポニーテール

咲夜の周囲だけパッと花が咲いたように色が違う。

高校時代からずっとそんな感じだった。一緒の会場になった弓道場では、わさわざ探さなくても雰囲気を感じて振り返れば咲夜がいる。

咲夜はわざわざ"自分を輝かせて見せよう"とか"完璧を目指そう"と気取っているわけではなく"ただ自分ができるベストを尽くしていたらそうなった"というのが真実らしい。

一緒に暮らすようになってわかったことだが、咲夜はかなりの甘えベタだ。

問題が起こっても自分だけで解決しようとする。

個人的な悩みは誰かに相談する前に、心の中に閉じ込めてしまう。

悩みを悩みと自覚すらしていないのかもしれない。

尊は"完璧に近い咲夜"に追いつき、追い越すことで彼女に認められたいと思っていたが、今は違う感情に支配されている。

"彼女の思いを共有でき、彼女が唯一安らげる場所になりたい"

婚約者として一緒に暮らすようになり、7月には結婚を控えているとはいえ、それを公表していない以上、咲夜との間に一定の距離を感じずにはいられない。

ウエディングドレスを見に行ったあの日から、咲夜とはキスすらしていない。

そういう甘い雰囲気になると、咲夜の顔がこわばってやんわりと体を離そうとするのが分かるから、尊は咲夜が自然に受け入れるまでは待つことにしたのだ。

"咲夜のはじめては俺が貰ったんだ"

その事が、尊のなけなしの自信とプライドを支えていた。
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